ロココ後期の衣裳 優雅さの中に生まれた、新しい美しさ
- 11 分前
- 読了時間: 7分
今回、ブライスビューティーコンテストへの参加を決めて
chi_cu_rin 先生とのユニットで参加させていただいています。
メアリーの物語の中で、彼女が纏う一着のドレス。そのデザインを考えるために、私たちはあらためて18世紀の衣裳について調べました。今回の衣裳の背景にあるのは、18世紀後半、ロココ後期の女性服です。「ロココ」と聞くと、華やかな宮廷、たっぷりと広がったスカート、
リボンやレースに彩られた豪華なドレスを思い浮かべる方も多いかもしれません。けれども18世紀の衣裳を見ていくと、その美しさは時代とともに少しずつ姿を変えていきます。
ロココの華やかさから、軽やかな美しさへ
18世紀前半から中頃にかけてのフランスでは、宮廷文化を背景に、
優美で装飾的なロココ様式が花開きました。
淡く繊細な色彩。
シルクの光沢。
レース、リボン、フリル、花飾り。
そして、パニエによって大きく左右へ広げられたスカート。
女性の身体そのものを飾るというよりも、
衣裳全体でひとつの美しい造形をつくり上げるようなスタイルです。
ところが18世紀後半になると、そのシルエットにも少しずつ変化が現れます。極端に左右へ張り出した形から、
より自然で軽やかな姿へ。豪華な装飾は残しながらも、
そこには次第に動きやすさや自然さを求める新しい感覚が加わっていきました。
美しいシルエットをつくる「見えない衣裳」
当時のこの独特のフォルム、
ドレスの美しさを支えていたのは、表から見えるガウンだけではありません。その下には、いくつもの衣裳が重ねられていました。まず肌に近いところに着るシュミーズとドロワーズ。
その上から身体のラインを整えるステイズ(コルセット)を着けます。
そしてスカートの形をつくるためのパニエなどの支持具。さらにペティコートを重ね、アンダースカート、
その上にガウンを纏います。つまり、私たちが絵画などで目にする優雅なシルエットは、
一枚のドレスによって生まれているわけではありません。
見えないところにある何層もの構造があって、初めて完成するものなのです。
これは現代の服づくりにも通じる、とても興味深いところです。
美しいものほど、その美しさを支えるものは表からは見えない。
メアリーの衣裳でも、ドロワーズ、コルセット、パニエから制作したのは、
この時代のシルエットをできるだけ構造から捉えたいと考えたからでした。
ローブ・ア・ラ・フランセーズというドレス
ロココを象徴する女性服のひとつが、
ローブ・ア・ラ・フランセーズ(Robe à la française)です。
最大の特徴は、背中から床へ向かって流れ落ちる、美しいプリーツ。
前身頃は開いており、その内側には装飾されたストマッカーが見えます。
スカート部分からは、同じく美しく装飾されたペティコートがのぞきます。
一着の服でありながら、ガウンストマッカーペティコートという複数の部分が重なり合い、
ひとつの調和した姿をつくります。
見る角度によって布の重なりや光の表情が変化するところも、この衣裳の大きな魅力です。
シルクがつくる、光と陰影
18世紀の上流階級の衣裳には、美しいシルクがふんだんに使われました。タフタ、サテン、ブロケードなど、織り方によって異なる表情を持つ絹織物。なかでもシルクタフタには独特の張りがあります。その張りが、ドレスの立体的なシルエットを保ち、細かな襞やドレープを美しく見せてくれます。
そしてもうひとつ、シルクの魅力は光です。身体が動くたび、布の表面に光と影が生まれる。
同じ色であっても、角度によって明るく見えたり、深い色に見えたりする。写真や絵画だけでは伝わりきらない、動きの中にある美しさです。
装飾は「足す」だけではない
ロココの衣裳には、レース、リボン、フリル、ブレード、刺繍など、さまざまな装飾が施されています。
一見すると、ただ華やかに飾っているようにも見えます。
けれど、実際の衣裳をよく観察すると、装飾にはきちんと役割があります。
縦のラインを強調する。
ウエストを細く見せる。
胸元へ視線を導く。
スカートの広がりを美しく見せる。
つまり装飾もまた、シルエットをつくるためのデザインの一部なのです。
たくさん飾れば美しくなるわけではありません。どこに置き、どこに余白を残すのか。
その選択の積み重ねによって、一着の衣裳の美しさが決まっていきます。
そして時代は、大きく変わっていく
18世紀後半。華麗な宮廷文化の一方で、人々の価値観にも変化が生まれていました。
自然や素朴さへの憧れが広がり、イギリスの服飾文化からの影響も強くなっていきます。
女性服にも、より活動的で軽やかなシルエットが現れるようになります。
やがて1789年、フランス革命。それまで権力や身分を象徴していた豪華な衣裳の意味も、大きく変わっていきます。そして18世紀末から19世紀初頭には、ロココの大きなスカートとはまったく異なる、細く縦へ流れるような新しいシルエットへと時代は移っていきます。
そう考えると、ロココ後期の衣裳には不思議な魅力があります。華やかな時代の完成形でありながら、その向こうにはすでに、新しい時代の気配が見えているからです。
メアリーが纏ったロココ
今回制作したメアリーの衣裳では、ロココ時代の服をそのまま小さくするのではなく、
当時の衣裳が持っていた構造と美しさの理由を大切にしました。
ドロワーズ。
コルセット。
パニエ。
アンダースカート。
ガウン。
ストマッカー。
外からはほとんど見えなくなってしまうものも、一つずつ制作しています。それは、完成した姿だけではなく、「なぜ、このシルエットは美しいのか」を辿ってみたかったからです。
何百年も前の職人たちが考えた構造。シルクの張り。レースの繊細さ。身体を美しく見せるためのライン。そのひとつひとつを小さな衣裳の中に重ねながら、メアリーのドレスは完成しました。
メアリーの衣裳は、歴史衣裳の完全な再現を目的としたものではありません。
残された衣裳や資料から学び、その構造や時代の美意識を辿りながら、
物語の中に生きる「メアリーのための一着」として制作しました。
人間のサイズをドールサイズに落とし込むという作業は、実はとても難しく、忠実な再現というよりは
衣装のもつ美しさを継承する必要があります。
よりリアルに という視点と共にドールならではの美しさをさらに追及していくための作業もまた必要になります。
物語の中では、小説家となったメアリーが人生の大切な日に選んだ一着。
けれどその衣裳の向こうには、18世紀を生きた人々が追い求めた美しさがあります。物語を楽しんでいただくとともに、その背景にある服飾の歴史にも、少し興味を持っていただけたら嬉しく思います。
今回、参考とさせていただいたもの
今回の衣裳制作および記事の執筆にあたり、以下の展示・資料を参考にしました。
長谷川彰さん主催「半分解展」
歴史衣裳を外側から眺めるだけではなく、その構造を知るという視点は、
今回の衣裳制作において大きな手がかりとなりました。
もともと、私たちは学生時代にも学んでいましたし、基礎知識は持っていたのですが
とくに chi_cu_rin 先生は、その構造を知るため何度も足を運び
実物のローブアラフランセーズに触れ、再構築してくれました。
まさに真骨頂ということになるでしょう。
京都国立近代美術館 展覧会図録『華麗な革命』
この図録は、1980年代の展覧会の時のもので、私はこの展覧会のために京都に。
はじめて、本物のローブアラフランセーズを目の当たりにしました。
この図録を抱えて、新幹線に乗ったことを覚えています。
18世紀の華やかな衣裳と、その後に訪れる大きな変化。衣裳を単独の「美しいもの」としてではなく、時代や社会、美意識の変化など、
捉えるうえで参考にした一冊です。
この時代の図録の素晴らしさと言ったら。
18世紀のドレスメイキング 手縫いで作る貴婦人の衣装構造的なところも参考にしましたが、衣装の着方も参考とさせていただきました。
18世紀のヘアスタイリング 貴婦人の髪型から帽子、メイクまで忠実に再現
18世紀の独特のヘアスタイルの参考となりました。





















コメント